羽野こはる@webライターブログ

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不器用、運動音痴の子ども 発達性協調運動障害(DCD)への対応とは?

極端に姿勢が悪い、鉛筆やハサミを使うのが下手、体育が苦手など、明らかに運動や手先の使い方が不器用な場合、「発達性協調運動障害(DCD =Developmental Coordination Disorder)」の可能性があります。

 

幼児期からその兆候は見られますが、小学校に上がると難しい運動を求められ、その特性は目立ってきます。また、幼児期よりも他の生徒から指摘されることも増えるかもしれません。

 

本人は一生懸命なのに、ふざけている、さぼっていると思われてしまう。自信をなくして嫌いになり、ますます避けてしまう。そんな悪循環に陥る前に、周囲の大人が正しい知識を持ち、指導法を工夫する必要があります。

 

発達性協調運動障害の特徴、家庭やクラスでの対応、事例についてお伝えします。

 

 

発達性協調運動障害(DCD)とは?

 

発達障害の一つであり、脳の機能障害と言われています。

注意欠陥多動性障害などの他の発達障害と併せ持つこともありますが、単独で特性が見られることもあります。

 

診断基準からDCDの特性を説明します。

 

 

 ・以下のような運動が、年齢や使用機会よりも明らかに劣っている。

 

  粗大運動:自転車に乗る、スポーツなどの全身の運動

  微細運動:物を掴む、はさみや刃物をつかう、書字などの手先の運動

  協調運動:目と手や、手と足など、個々の動きを一緒に行う運動

 

 

 ・物を落とす、ぶつかるといった不器用さがある。

 ・年齢にふさわしい自己管理や自己保全が難しい。

 ・学習や仕事、余暇、遊びに影響がある。

 ・幼少期から見られる。

 ・知的な遅れや視力障害、神経疾患によるのもではない。

 

 

アメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版 テキスト改訂版)

 

以前は運動不足や育て方の問題とされてきました。今でも認知度は低く、DCD自体を知らない医師や教育関係者も多いようです。

 

 

困り感はどんなところにある?

 

運動というと走行やスポーツを思い浮かべますが、運動の苦手さからくる困り感は生活全体に及びます。

 

・食事での食べこぼし、入浴での失敗などの日常生活

・姿勢の崩れ、書字の遅さなど授業中

・靴ひもを結ぶ、名札を付ける、図工で絵を描くなど学校生活全般

 

 

体育の授業では困り感は顕著です。まず着脱に時間がかかり、準備体操では見本通りに真似をするのが困難。ボールスポーツはドリブルをしながら移動する、狙ってゴールするなど協調運動の連続です。鉄棒や跳び箱は手足がどんな風に伸び縮みしているか判断するイメージがとても大切ですが、DCDではとても難しいことです。

 

また、幼稚園や保育園と比べ、他の生徒からの指摘も厳しくなります。特に理解の低い教師から「努力不足」や「真剣にやっていない」と指摘されると、他の生徒も同じ考えを持ってしまうでしょう。ますます苦手意識が高まったり、苦手さを隠すためふざけるようになってしまったりして、問題が大きくなることもあります。自信を失い、最悪の場合いじめや不登校につながるなんてことも。そのような状態を「二次障害」と言います。

 

 

 

DCDに対する家庭や学校での対応は?

 

それでは、DCDの子どもへの対応はどうすれば良いのか、二次障害を引き起こさないためにはどうするべきかを説明します。

 

①専門機関に相談する

 

DCDに対する専門機関

 

・病院の専門外来(小児神経科や小児精神科、発達外来などの名称)

・公立の発達支援機関(国立から市町村まで様々)

・民間の発達支援機関(NPO法人から株式会社まで様々)

・保健センター(地域の発達支援機関を紹介されることが多い)

 

地域によっても異なりますが、専門機関とつながっておくことで的確な対応を知ることができます。

可能であれば、専門機関と学校が連携して対応に当たれるとよいでしょう。

 

 

②気持ちの問題ではないことを理解する

 

発達障害は、一般的な病気のように原因を追究して治療するものではありません。特性と付き合いながら社会と近づいていくためには、周囲の理解と協力が不可欠です。本人も、気持ちや努力の問題でないことを知って、自信を持って取り組めるようになると、苦手意識を減らせるかもしれません。

発達支援機関の取り組みの一つに、保護者の障害理解を進める活動があります。軍手を何重にも重ねて縫物をする、大人に急かされながら苦手なことをするなどです。運動障害の疑似体験をすることで、気持ちを理解するだけでなく、どんな工夫や声掛けが必要かを知ることができます。

 

 

③環境を整える

 

 

運動の苦手さを補うためには、やり方の工夫や道具利用をすることが大切です。

 

・着脱が苦手:小さいボタンのワイシャツや、背中側にファスナーのあるワンピースなどを避ける。

・板書が遅い:板書で間に合わない場合は、黒板をカメラで撮影する。

・縄跳びが苦手:目標回数を少なくする。

 

④スモールステップで取り組む

 

練習したい運動の前段階から取り組む方法です。

 

・縄跳びの前にフラフープ跳びをする。

・普通の鉛筆の前に三角鉛筆を使用する。

・見本を真似させてから自分で取り組む。

 

 

⑤遊びや家庭の手伝いの中で練習する

 

学校で緊張してしまう子どもは、安心できる家庭で褒められながら練習することが大切です。

 

・公園遊びや砂場遊び、粘土遊びなどで手、指、身体全体を使う。

・洗濯物干し、ぞうきん絞り、袋の口を縛るなどのお手伝いをする。

・人形の服ボタンの開け閉めや、細かいレゴブロックの組み立てで手先を使う。

 

 

事例紹介

 

それでは、DCDの子どもの事例と具体的な対応方法について紹介します。

 

・鉛筆を使うことが苦手なAちゃん(小学校1年生)

特性:保育園ではお友達と活発に遊ぶことが好きでした。就学が近づき、鉛筆や色鉛筆を使って字を書くことを求められると、手先を使うことが苦手なため拒否反応を示し始めます。小学校に入る頃には鉛筆を持つことも嫌がるようになりました。

 

対応:太めの三角鉛筆を使って、簡単な迷路をたどる遊びを行います。好きなキャラクターを使って楽しんで行うことで、構えずに取り組めるようになりました。慣れた頃に、迷路からひらがなのなぞり書きに意向し、書字に拒否反応を示さなくなりました。

 

 

・姿勢が崩れるB君(小学校3年生)

特性:身体が大きく力の強い男の子ですが、椅子に座ると徐々に背中が丸まり、肘をついたり膝を曲げてしまいます。言葉を聞いた通りに解釈しがちなコミュニケーションの障害も併せ持っているため、「ちゃんと座って」と叱られても何をどう正せば良いのかわかりません。また、姿勢を崩さないことに必死で授業に集中できません。授業中に怒られることが多く、学校に行きたくないと言い始めました。

 

対応:運動プログラムでは、揺れる遊具の上でバランスを取ったり、ゆっくり重いものを運んだりする練習をしました。担任の先生には「右足を床に付けて」など、具体的な姿勢の正し方を指導してもらうようにしました。体育では得意な競技で見本として発表をすることで自信を取り戻し、徐々に学校を楽しめるようになりました。

 

 

まとめ

発達性協調運動障害は認知度が低く、不器用や運動音痴に見えるため指導や叱咤の対象になりがちです。また、体育の授業や部活動だけでなく、日常生活や健康状態にも関わる特性です。周りの大人が正しい理解を持って、本人の自尊感情を高めながら対応していかなければなりません。特性と付き合いながら、豊かな社会生活を送れるよう、支援していけると良いでしょう。

 

 

参考:発達障害がある子どものための楽しい感覚・運動あそび(森田安徳 編著)

   子どもの発達にあわせて教える4 手・指の使い方編(小倉尚子・松麻実子・武藤英夫 監修)